酒井和夫先生のメンタルケアコラム
第二十回

悩みを抱えた子ども達の食生活は見直す必要があります

先進医療の現場でもやはり若年化の傾向がありますか?

酒井先生(以下酒井) これは不思議なことなんですが、日本に限らずアメリカ、ヨーロッパ、全世界の傾向として、3歳位から多動性障害になる子供が増加しているそうです。

その変化が一番よくわかっているのが現場のベテラン保育士さん。最近、特に相談を受けるのが10年~20年と培ってきたノウハウが今の幼児に通用しないと苦悩されていることです。昔は心の調子が悪い子どもというのは10人に1人もいない、という割合だったけれども、今は実感として、大げさでなく3人に1人が調子が悪い、と感じるそうです。
この状況が社会モラルの低下を原因としてしまうのは正直疑問です。なぜなら3歳だと最初はお母さんと一対一。誠実に子育てをしているお母さんも多いですし、早い子でもほんの少し社会と触れた程度ですからね。

言われる教育の問題でもない。逆に小学生に関して今の公教育というのは、一年生からのケアをかなり重視していて、低学年の先生たちは連絡帳を書くために遅くまで残業し、生徒たちとの接触も昔よりも密にしているそうです。もちろん現状に追いつかないこともあるようですが、必死に取り組まれているのは確かです。

授乳期のコミュニケーションが影響しているのでしょうか?

酒井 いえ、それよりも授乳している母乳の栄養素に関係があるかもしれませんね。ただし決して栄養不足ということではありません。それこそ江戸時代の子供は、栄養不足でも外を走り回ったり、家の手伝いをしたりといった子どもばかり。今の子ども達は幼少期ですら、子どもが当たり前のように持っていたエネルギーが減っています。そういった子がそのまま大人になることで精神的エネルギーの少ない人が増え、結果ストレスに耐えられない大人が増えてきているのでしょう。とにかく、落ち着きがない、集中できないというのは、幼い頃にその原因を見つけて、適切にケアするということが必要です。

子育ての環境というのはどうでしょうか?

酒井 それも少しはあるとは思いますね、都会だけでなく地方でも共同体は崩壊しつつありますから。ただそれを原因にしてしまうと、世界的に同時にうつや多動性障害、発達障害が増えている状況の説明ができません。

私が医者としてその原因として一番注目しているのは、やはり栄養的な面ですね。では何の栄養が足りないのか?という疑問に対しての一つの答えが、キトサンであったり、フェルラ酸なのではないかと思っています。これらの成分は日本だけでなくアジアや欧米でも、昔から一般的に庶民が食べていたものに含まれます。食生活が世界的にも劇的に変わってきているのが、うつや多動性障害が増えている原因ではないかと分析しています。

例えばインド人は子供の発達障害が非常に少ないのですが、これはインド料理に欠かせないターメリックのおかげかもしれない。ターメリックを摂ると認知症が少ないことはわかっていますし、インドの食生活は各国と比較してグローバル化していない。逆に先進国では、伝統食・刺激のあるものは1~3歳の子供に摂らせない方向ですよね。でも、心に問題があるかな?と思う子には昔からの食事は与えた方がよいように思います。

フェルラ酸は玄米からとれるものですよね、日本人の古くからの主食です。

酒井 アフリカでも中国でも、貧しい地域ほど精米技術や小麦も精製する技術がないから、そのまま食べてしまう。だからかもしれませんが、貧しい中でも子ども達の気力は充実しているし外を走り回って遊んでいます。

今、小学校ではちょっとやんちゃだと多動児予備軍とチェックされてしまい、親御さんもそれが心配の種になっています。

その方面の専門家だと1歳でわかるそうです、3歳で確定的だと言います。そういった場合は、小さい頃からフェルラ酸を摂ったほうがいいのですよ。

フェルラ酸も含め健全な食生活をすることで、かなりの改善が見こめるということでしょうか?医療の世界ではまだ改善方法が見つかっていないとのことですが……。

酒井 見つかっていないですね、今のところ医療のアプローチでは予防も治療も難しいです。現場の教育者はしつけが原因じゃないか、今やっていることが間違いじゃないかと、とても苦しんでいます。このままでは今行われている教育改革も無駄に終わりかねない。それよりも子どもの精神状態に合わせた栄養の見直しが急務だと思います。例えばキレやすい子にはキトサンやフェルラ酸を多めに摂取させるといったように。

低学年の子どもにはカプセルのスピリッツは難しいですね

それならブライトでもかまわないです、飲みやすいですしね。とにかく教育・医療現場ですら模索が続いている以上、最大限、自分でできることで防衛していかなければいけないのです。たとえ薬ができても、その認証に10年はかかります。現時点でも発達障害に効果があるものは見つかってないですから……。

大人の社会に目を向けると、うつによる休職が急増しているようですね、復職後のうつの再発も多いそうです。

酒井 現代に限らず、昔から心の弱い若者はたくさんいましたよね。でもそういう人は会社に入ってから教育し、それこそ社会にもまれながら一人前になっていました。でも今はその教育が効かない、教育しようとしてもはみ出てしまうそうです。管理者からすると、今の若い人は…となるのでしょうが、実は昔と比較して会社自体の雰囲気も悪くなっている場合もあるようです。

先日、東京大学を卒業し大企業に入って、3年してうつになった患者さんを診察しました。話を聞いてみると、誰だって持たない、これはあんまりだ、というようなつらい仕事を、会社側が若い人に要求していて正直驚きました。企業自体も余裕がなくなって、人の使い方や適性診断が上手くできなくなりつつあるのかもしれません。

今、大企業ほどそういう摩擦が多く、トラブルが多い場合もあるそうですね。

酒井 それに優秀な人程我慢を重ねるので、休職してしまうような、重いうつになる確率が高いのかもしれません。放っておけば良くなるというものでもないので、やはり自分自身でケアを心がけなければならないのです。

実際にうつで休職している方々に何かアドバイスはありますか?

酒井 実は、そう簡単ではありません。なぜならうつは同環境だと再発しやすいことがわかっています。うつを発症させた元の職場に戻るというのはかなり難しいことなのです。私は産業医もやっていますが、人によっては繰り返し休職に至ってしまいます。

大企業だと福利厚生としてゆっくり治せるかもしれませんが、中小企業や個人だと職を失う事に直結しますよね

酒井  近年、うつによる休職の予防を目的として、各企業でのストレスチェックが始まったのですが、社内カウンセラーでは正直手が回らないと思います。まだ始まったばかりですが、できるだけ良い方向に行けばよいとは思っているのですが……。うつ病は一番深いところに入ってしまうと、一度治療してもそのイメージが残って、その後のケアが上手くいきづらいのです。休職を繰り返すスパイラルに入ると、現在のありとあらゆる薬を使ってもなかなか良い方向にいかないこともあります。

そういった予防の一番の早道はやはり食生活の改善ですか?

酒井  そうですね。しかも栄養ではなく「腸」に良い働きをしてくれるものを食べないといけません。ですから何かアドバイスをするなら、食物繊維をしっかり摂ることをおすすめします。私は動物性の「スピリッツ」と植物性の「イヌリン(ちょーかいちょう)」の両方を飲んでいますよ。

スピリッツ発売の際、先生に話して頂いた「腸は第二の脳であり、腸と脳がつながっている、セロトニンが脳と腸でできている」という話は本当に一般的な情報になりました。ここ何年かセロトニンサプリなど、様々なものが出回るようになってきましたしね。

酒井  神経伝達物質の1つであるセロトニンは人間の体内で合成され、きちんと分泌されていると落ち着きや心地よさをもたらします。ただうつの人はセロトニンが足りないというより、セロトニンが回っていない、セロトニンを含む回路が上手く働いていない状態というのが本当で、そのメカニズムは少しずつ解明されています。

精神医療ではうつのケアはカウンセリングが重要視されていますが、学校カウンセラーや社内カウンセラーは現実的にまだうまくいっていません。だから心の問題は別に原因がある、という考え方はやはり説得力があります。セロトニンについて感受性を持っている細胞は腸に95%含まれますので、まずは腸内をケアしないとカウンセリングはうまくいかないと考えています。

お客様からの質問で多い断薬(精神科の薬をやめる)の方法を伺いたいのですが?

酒井  そうですね、まず薬の認識を変えるとよいと思います。精神科では様々な薬をもらうと思うのですが、実はそれほどたくさんの種類を飲む必要がない、効いても1~2種類で良い、という認識を持つことです。

薬を飲まれる方は、抗うつ剤、安定剤、入眠剤など色々な種類をたくさん飲んでいますよね。

酒井  まず知っておいて欲しいのが、飲む薬がどんどん増えていくというのは決して医者が利益を上げようとしているわけではないということです。患者さんにたくさんの種類の薬を処方すると、実は保険点数というのは下がります。あくまでお悩みの症状をケアする方法を探している中で、他に選択肢がないから、たくさんの薬を使わざるを得ないのです。

患者さんは耐性や常用性の問題からやめられないと悩んでいる方が多いようです、そういった現状はいかがですか?

酒井  意志があれば計画的にやめることができます。もちろんやめてはいけない薬もありますが、不安なくやめて良い薬もあります。これは担当医に相談すれば、ちゃんと対応してくれる方も多いと思いますが……。

薬を処方する先生に明確に断薬の希望を伝える、ということですね?

酒井   「減らしていきたい」と伝えることです。断薬というと表現が強すぎますね。

お客様が、ある先生に「これは一生飲んで下さい」と言われ、ショックを受けたそうです。この先ずっと薬漬けなのかと。

酒井   薬の内容が詳しくわからないので、何とも言えませんが、それは逆に飲み続けても副作用の少ない、安全性の高い薬なのでしょう。ただしそれは、安全な分、効果が明確にわからないものが多い。ですので飲んでも正直ピンとこない薬なのに、なぜ続けるのだろう、と考えてしまうのかもしれませんね。

先生はスピリッツとマインド、ブライトなどを使って、薬を全く使わないケアを目指していらっしゃいますか?

酒井   それは病気によりますね、例えばてんかん系の病気は、薬での治療が必要です。同じく統合失調症も薬を使わないと身体に危険が及ぶこともありますので、やはり薬は使います。ただ私が、処方が今でも難しいと思うのがうつなんです。繰り返すようですがうつは本当に簡単ではない。もし患者さんからうつの治療中に薬を飲みたくないと言われたら、私は必要な1~2種類を残して減薬します。抗うつ剤はこれ一つでいいというものがなく、一つではちょっと足りない部分が出てくるからです。

薬は究極的には、効いてくれればその人の助けになるのですが、やはり問題になるのは副作用です。効く部分より副作用の方が生活に悪影響を及ぼす場合、私は患者さんと相談して飲み続けるかどうか選択して頂きます。ただ副作用も状態によって変化していくので……。飲み続けることでどちらにいくのか、これも簡単にはいかない難しい問題です。

私たちはそういう場合こそ、スピリッツやブライトを飲みましょう、とご案内しているのですが……。

酒井   いいと思います、うつだけでなく様々なことの予防にもなりますし。何より安全ですから。特に若い方には積極的に摂ってもらいたいですね。だってかわいそうではないですか?一生懸命勉強して、やっと社会に出て活躍できると思ったら、苦しんで心が壊れて休職だなんて……。今、社会にいる側の人間として、あんまりといえばあんまりです。

とにかく予防として、食生活を良いものにしていくのが最も大事と考えます。食物繊維を摂るだけでなく、糖分、炭水化物の過剰摂取はいけません。現代人はそれらの依存症といってもいい状態で、心のバランスが乱れる原因となっています。その人の普段の食生活というのは、地域性、家庭や経済環境など複雑に関連しており、実は簡単に変えることができない難しいものですが、でもそこを覚悟して変えましょう。そうでないと自分も、子ども達も守れないですしね。

PROFILE

精神科医 酒井先生のプロフィール

1951年東京生まれ。東京大学文学部卒業、筑波大学医学研究科博士課程修了。
精神科医、医学博士、日本医師会認定産業医、臨床心理士。

現在、ストレスケア日比谷クリニック院長。おもに心身症、摂食障害、気分障害(うつ病)、強迫性障害などの治療に従事。

目次(全20回)
第20回 「悩みを抱えた子ども達の食生活は見直す必要があります」
第19回 「ビジネスパーソンのための自分で実践できるメンタルヘルス対策」
第18回 「心と心が通い合う。その第一歩は円満な家庭から始まります」
第17回 「急増する『介護うつ』について」
第16回 「睡眠の質と眠りのコツ」
第15回 「子育てのストレス」
第14回 「老人性うつの要因と対処法」
第13回 「うつ状態を防ぐために」
第12回 「更年期を乗り切る」
第11回 「引きこもりについて」
第10回 「育児ストレスの対処法」
第09回 「サンタクロースって本当にいるの?あなたならどう答えますか?」
第08回 「子どもの心とシンクロできる親のインスピレーションを磨く。」
第07回 「子どもたちの健全なこころの育成は大人たちの健全な精神生活にある。」
第06回 「親の考え方が柔軟になれば子どもも自ずと夢を描ける。」
第05回 「子供が抱える悩みは親の抱える悩みと共通しています。」
第04回 「未来から現在を見る。その視点が明るい未来を切り開きます。」
第03回 「親の健康が子供の心を育む。食生活はなによりも大切です。」
第02回 「心と心が通い合う。その第一歩は円満な家庭から始まります。」
第01回 「子供との心の関係性は、大人たちの意識の変化が不可欠です。」