酒井先生(以下酒井) 視床下部と脳下垂体と卵巣をつなぐホルモンの複雑なフィードバック回路があります。それが正常に働いて、実際の月経周期なんかがあるわけです。しかし、更年期に入ると様々なホルモンが低下してきます。
ホルモンというのはかなり大きな影響力を持っていて、この低下によってほとんどの不定愁訴(※特定の病気としてまとめられない漠然としたからだの不調の訴えのこと。頭が重い、疲れやすい、食欲がないなど)が起こってくるんです。体のだるさやほてり、精神的には憂鬱になりがちになりますし、胃腸系も循環系もうまく働かなくなったりもします。
特に生理の前後では非常に調子が悪くなったり、また、それを境にして、骨粗鬆症なども起こりやすくなってきます。現代の特徴というのは、そういう症状が若い人にもずれこんできているんですね。三十代前半から悩む方もあるのでかなり気をつけなくちゃいけないですね。
酒井 いろいろな理由があると思いますが、一番はやはり生活環境が変わってきているということですね。特に食生活と環境ホルモンの影響が大きい。最近の少子化の一因には、こうした影響で女性の身体が妊娠しにくくなっているということもあるんですね。統計的に見ても、ここ十年間ぐらいで、ホルモンの失調がかなり起こりやすくなっています。
十五年ぐらい前までは、月経前症候群という症状名はあっても、最近のように調子が悪くなって何もできなくなるという人はそんなにいませんでした。
ところが最近はそうではない。二十代の女性ですでに、女性ホルモンの働きが十分じゃないという人もかなり増えてきていてそれとともに、気分が落ち込んだり、イライラしたりとか、そういう自律神経系、精神系の失調が大幅に増加してきているのが現状です。
酒井 こうした症状を薬で治すのは結構難しくて、抗うつ薬もあまり効かないんですよね。かといって、ホルモン療法は専門家でもとても難しいと言われています。ホルモン療法は本来、内部から作られているホルモンを外から与える治療法なわけです。
ですから、本人のホルモンの分泌能力をだめにしていってしまう。今、低容量ピルというのが避妊薬として認可されているんですが、それですら副作用が結構あります。ガンを発生させる遠因にもなったりして、あまりおすすめはできません。
酒井 実践的な対処法として考えられるのは、食生活の中にホルモンの働きをよくするような自然の恵みを取り込むことです。ホルモンの環境を整えて、かつ、ホルモンではないような食品というのは非常に有用だと思います。たとえば、わたし自身は最近、ラフマ(ヤンロン)というハーブ系の植物にとても注目しています。
婦人科の先生が女性のホルモンバランスに効用があるというのを発見されて、特に月経前後の精神の不安定さや更年期による不定愁訴の症状を数多く治すことに成功していらっしゃいます。このラフマ葉素材のサプリメント(※ヌースマインド)を私のクリニックでも、使っていますが、かなり評判はいいようです。
1951年東京生まれ。東京大学文学部卒業、筑波大学医学研究科博士課程修了。
精神科医、医学博士、日本医師会認定産業医、臨床心理士。
現在、ストレスケア日比谷クリニック院長。おもに心身症、摂食障害、気分障害(うつ病)、強迫性障害などの治療に従事。