コロナ禍以降、除菌の習慣は極めて身近なものとなりました。 今や多くの店先で常設されるようになった消毒や除菌スプレーは感染対策に有効と思われがちですが、過剰な除菌は免疫力の低下を招く一面もあります。
私たちの皮膚や腸には、病原菌の侵入を防ぎ、免疫を整える「常在菌」が多数存在しています。これらは、免疫細胞に情報を与え、免疫の働きを鍛える存在でもあります。
ところが、除菌しすぎると、この大切な常在菌まで奪われてしまい、免疫システムが未熟化してしまうのです。清潔すぎる環境で育った子どもにアレルギーが多いという「衛生仮説※」も、この影響を示す一例です。 適度な菌との共存こそが、免疫を育てる鍵といえるでしょう。
1989年にイギリスの疫学者、デービッド・ストラカン博士が提唱した概念で、幼少期の衛生環境が免疫系の発達に影響を与え、アレルギーや自己免疫疾患の発症リスクを左右するという考え方です。
清潔すぎる環境で育つと、免疫系が適切な刺激を受けず、アレルギーになりやすくなるというものです。しかし、アレルギーの発症には、遺伝や生活習慣など、様々な要因が複雑に絡み合っているため、過度な衛生管理だけでなく、バランスの取れた生活習慣を心がけることが大切です。
現代の食生活は、昔と比べて大きく変化しました。特に増えているのが、パンや菓子、加工肉などの「超加工食品」。これらには保存料や着色料、乳化剤などの食品添加物が多く含まれ、中には腸内環境に悪影響を与えるものもあります。
腸は免疫細胞の約7割が集まる場所です。当然、腸内細菌は免疫の働きに深く関わっており、そのバランスが崩れると、免疫機能の調整がうまくいかず、結果として免疫力の低下につながります。
さらに、超加工食品は食物繊維が不足しやすく、善玉菌のエサが足りなくなることで腸内環境が悪化。結果、免疫の働きが鈍くなり、感染症への抵抗力も落ちてしまうのです。
現代社会は情報にあふれています。スマートフォンを開けば、いつでも情報が飛び込んできて、私たちに慢性的なストレスを与えます。
特にコロナ禍以降は、見通せない経済、過剰な情報の蔓延など、複数のストレス要因が日常的に重なっています。こうした強いストレスは自律神経のバランスを乱し、交感神経を優位に。結果、血管が収縮し、免疫細胞が体の隅々まで届きにくくなり、免疫力の低下を招くのです。
さらに、情報の洪水は脳を休ませる時間を奪い、睡眠の質にも影響します。睡眠不足は免疫の働きを阻害するとされ、私たちは知らぬ間に情報心身のバランスを崩し、免疫機能を弱めているのです。
在宅ワークや移動手段の発達により、現代人は以前にも増して運動不足になりがちです。適度な運動は血流を促し、ストレス解酒や免疫力の維持に役立ちますが、そうした機会が減っています。
さらに現代人の体温は以前に比べて低下傾向にあります。冷房の普及、冷たい飲食物、シャワー中心の生活、筋肉量の減少などが影響し、体の冷えを引き起こしています。
体温は免疫機能と密接に関係しており、1°下がると免疫力が約30%も低下すると言われています。血流の悪化により酸素や栄養が届きにくくなり、免疫細胞や酵素の働きも鈍くなって、代謝が下がり老廃物が蓄積しやすくなるのです。
除菌は大切ですが、神経質になりすぎず、自然と触れ合う機会を意識しましょう。ガーデニングや散歩、外遊びなどで多様な微生物に触れることが、免疫機能を刺激する大切な習慣となります。特に子どもには、砂場や泥遊びなど、多少の汚れも含めた体験が免疫力を育てる大切な助けになります。
スマートフォンやPC に触れる時間を減らす「デジタルデトックス」を意識的に取り入れることで、脳の疲労を軽減し、質の良い睡眠にもつながります。1日5分、静かな場所でゆっくり深呼吸する時間を持ちましょう。腹式呼吸は、心身の緊張を和らげる効果を高めてくれます。
腸内環境を整えるには、発酵食品や食物繊維、良質な栄養素を含む和の食材が効果的です。「まごわやさしい」とは、豆・ごま・わかめ・野菜・魚・しいたけ・いも類のこと。これらを日々の食事に取り入れることで、腸が元気になり、免疫力の維持・強化につながります。体調を崩しやすい季節にもおすすめです。
湯船にゆっくり浸かって体の芯から温まり、夏でも白湯やハーブティーなどの温かい飲み物を意識的に摂るよう心がけましょう。さらに、階段を使う、一駅分歩くなど、日常の中で無理なく体を動かす習慣を取り入れることで、冷えを防ぎ、体温を保ち、免疫力をしっかりと支えることができます。
※当記事は弊社発行誌『イキイキ生活通信』に掲載された内容を改編・再載しております。
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