健康コラム
Healthcare Column.

腸内細菌で変わる心と身体

身体の中で健康をコントロールする菌

私たちの身体には皮膚表面から内臓の内側まで膨大な数の菌がひそんでいます。感染や除菌という言葉から誤解しがちですが、菌は排除するものではなく「常に一緒」にいるものと理解しておきましょう。

近年、生物学的な解析方法の発展により、便中の様々な菌の働きを調べることが可能になりました。その結果、特に腸の中の細菌が、摂取した栄養をもとに生理活性物質や酵素、毒素などを産生し、人間の活動をコントロールしてることが明らかになったのです。

その範囲は体調はもちろん、心の状態や性格にまで深く関与します。私たちは、健康に生きるために、菌の種類や構成を腸内で整える生活習慣を考える必要があるのです。

善玉菌の割合をどう増やすかが健康のカギ!

腸内細菌は腸壁の粘膜に約100兆個生息しているといわれ、その総重量はなんと約1.5キロ。腸壁の粘膜にびっしり、まるでお花畑(フローラ)のように生息していることから「腸内フローラ(腸内細菌叢)」と呼ばれています。

【善玉菌】ビフィズス菌・乳酸桿菌
善玉菌の中心であるビフィズス菌数をうつ病患者の便で調べたところ、そうではない人に比べて明らかに少ないことが認められました。同じく乳酸桿菌の菌数も少ない傾向にあり、この結果からうつ病のリスクを低くするために、善玉菌を積極的に増やすなどの治療法が検討されています。

【日和見菌】バクテロイデス・連鎖球菌
日和見菌は腸内細菌で最も多いグループ。善玉・悪玉のうち数的に優位なほうに味方します。日和見菌が働く理想のバランスは善玉菌優位の善玉2・日和見7・悪玉1。健康なときはおとなしくしていますが、それが崩れると悪玉菌と共に体内で炎症を引き起こす物質を生成します。

【悪玉菌】大腸菌、ブドウ球菌など
心の病は、さまざまな原因が指摘されていますが、その一つに慢性的で軽い脳の炎症によって起きるという考え方があります。腸内で悪玉菌が増え、その働きが慢性化すると腸粘膜に炎症が起き、その炎症が血流にのって、脳の炎症を引き起こしていると考えられています。

いま注目を浴びている腸内細菌と心の関係

2019年、腸内細菌に偏りがなく多様性に富む人は、睡眠の質と睡眠時間が向上し途中覚醒が減少するという研究が新たに発表されました。これは腸内細菌の種類が多く腸の善玉菌優位であるほど、体内の「インターロイキン6(免疫活性物質)」という分泌物濃度が高くなることがわかったからです。

睡眠障害やうつ病の人は、インターロイキン6の血中濃度が低いことは以前から実証されており、この研究結果によって、腸内ケアが精神医療での有効な治療法であることを確立することになりました。

また善玉菌が腸内で作りだす「心の健康を保つ物質」と「身体の健康を保つ物質」は共通するものが多いことも分かっています。つまり、心のケアで体調がよくなったり、体調がよくなることで気分がよくなる、という好循環は、善玉菌優位の腸でつくりだすことが可能、ということ。
ちなみに新型コロナ感染者の2割の人には胃腸症状があるそうで、その影響で「コロナうつ」を起こしている可能性も指摘されています。

最新研究で分かった健康に役立つ「菌」とは

●脂肪吸収を抑える“やせ菌”「バクテロイデス菌」
バクテロイデスは、様々な研究でやせ型の人に多く検出されている菌で、いわゆるやせ菌と呼ばれています。
誰もが持っている日和見菌の一つですが、ダイエットを目指すなら食べる量を減らすより、まずこのやせ菌を育てて増やすことが重要です。すぐ太ってしまうと悩んでいる方はこの「肥満を防ぐ菌」が少ないために太ってしまう可能性が高いでしょう。バクテロイデスは日和見菌なので、まずは善玉菌が優位をキープ!それだけでもやせ体質に。バクテロイデス菌を活性化させるには水溶性食物繊維が豊富な食材、例えばわかめやめかぶ、ひじきなどの海藻などが有効だと言われています。

●糖尿病を予防する「プレボテラ菌」
プレボテラは食物繊維を分解して、短鎖脂肪酸である「酢酸・プロピオン酸」を生み出します。その結果、血糖値の上昇を抑える効果が高くなります。またパーキンソン病の人は健常な人よりも、プレボテラが8割減少すると報告されています。この日和見菌は2007年に日本人の便から初めて発見されたものでお米を長期的に食べている人に多く見られることが分かりました。

※当記事は弊社発行誌『イキイキ生活通信』に掲載された内容を再載しております。

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