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2012年8月 2日

『牙をなくしたドラゴン』第2話「ピタノアグリの修行」〜歯なしの音氣噺し〜

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【前話までの流れ】
肉食の苦手だったチドゥーが
招き龍・鳴き声コンテストの会場で
巻き起こした大失態。
チドゥーを応援に集まった
家族や友だちはもちろん
村の名誉もがた落ちに...。
みんなの期待を裏切ってしまった
チドゥーは 自己嫌悪に苛まれ
家族や友だち そして村人からも
完全に姿を隠すために
御飯の滝の底にある
鍾乳洞の奥深くへと
身を隠してしまったのです。
さて それから
二〇年と言う長い年月が流れ
身を隠してしまったチドゥーは
鍾乳洞の中で何を食べ?
一体何を考えていたのでしょう?
そして いつ鍾乳洞を出て
元の世界に戻るのでしょうか...⁉

御飯の滝は山の中腹にある
落差一〇八mもある滝で
しかも夏期の豪雨時にしか
その姿を現さない
黒髪を一本に結った様な
日本的で精悍な幻の滝です。
他の期間は滝壺自体が
湧水になっているからでしょうか
一年を通し決して
枯れることはありませんでした。
水は真珠貝よりも透明で
豊富な水草に魚たちも
群がっていましたが
底までいって戻った者がいない程
滝壺は底無しに深いのでしょう?
光も届かない底からの闇に
水面が鏡の様に光っていました。

「オーイ!チドゥー
もう誰も怒ってなんか
いないんだぞ〜〜。
良い加減に出て来いョ!」
「そうョ!ご両親も村の人たち
みんなも心配しているのョ...」と
ムッチャギとロシータは御飯の滝を
訪れる度に滝壺に向かっては
声をかけていました。
門の向こうを通りがかった
村人が二人の様子を遠目に
「可哀想なことをしたサナ〜」
「ん。確かサナ〜。チドゥーは
変わった青年だったサが
あの日の金のウロコを見たサか!
彼はやっぱり伝説の龍聖人
ピタノアグリ様の化身だったのサ」
「両親はもちろん本人も友達も
オイラ達だって誰一人 そのことに
気づかなかったのだサカナ〜。」
「んでも命さ投げ出さんでもナ〜」
「ほんに気の毒なことサカナ〜。」

岩の門の前に掲げられていた
金のウロコで作られた立て札は
どうなったかと言いますと
二枚ともその日以来
「旅人立入り厳禁」と
書き換えられていました。
しかし 年に一度チドゥーが
滝壺に飛び込んだ日に合わせ
息の長く続く村の勇者が
滝壺を捜索すると言う
行事は続けられていました。
何故?チドゥーの捜索が
何年にも及んでいるのかですって⁉
村の噂 噂ですがネ。
チドゥーの金のウロコが目当てで
遺体収集を待ってるだとか?
それが証拠にはコンテストの当日
会場に飛び散った金のウロコは
全て審査員どもが持ち帰ったサ!
と言うことでしたョ。

会場を飛び出したチドゥーは 
捜索の声が聞こえなくなるまで
森の奥へ一旦身を隠し
みんなが寝静まるのを待ち
こっそりと御飯の滝へと
やって来たのでした。
チドゥーは立て札に書かれた
二つの言葉を胸に仕舞い
死んでも良い覚悟で
想い出の滝壺の淵に立ちました。
勿論チドゥーは何度となく滝壺で
遊んだことはありましたが
滝壺深く潜ったこと等ありません。
底は何処までも深く
到底息が続かないことぐらい
子供の頃から分かっていました。
しかし今回は死んでも良い覚悟
誰も見たことの無い滝壺の底を
最初に見るドラゴンになるんだ!
そのくらい開き直った勢いで
体に限界まで息を吸い込むと
一気に頭から潜り始めたのです。
チドゥーは自分を勇気づける為に
得意の龍曲を唸り始めます。
チドゥーの時々漏らす息が
音符の様な泡になって
地上に向かい上がってゆきます。
するとウロコがあの時の様に
金色に変わり周囲の水に乱反射
チドゥーは金の螺旋を描き
魚たちも一緒に潜ってゆきます。
水深一〇mを超える当たりから
やや水温が暖かくなり
三〇mを超える頃には
我慢する程度の熱さにまでなり
光もやや届かなくなりました。
更に五〇mを超えてからは
お湯が沸く時と一緒で
熱による上昇水流も加わり
上に戻されるあり様です。
それでもチドゥーは力の限り
必死に潜り続けました。
でもついに火傷しそうナ熱さに
我慢の限界を超えてしまい
「あっ〜つ〜〜〜〜い」と
溜めていた息を一気に吐き出し
悲鳴を上げ気絶しかけたのです。
するとヒゲと鼻先が 急に
冷んやりしたかナと思った瞬間
今度は凍る様な水温に変わり
今までとは違う逆の渦が起こり
底に引込まれる水流に
全ての力を失ってゆくのでした。
チドゥーはモウロウとする中
溜めていた息もなくなり
当然呼吸も出来ていない筈なのに
ちっとも呼吸が苦しくならない
ことにふと気づきました。
なんとウロコ一枚が剥がれる度
自然に酸素が体内に供給されて
いるではありませんか⁉
チドゥーは胸にしまってあった
二つの言葉を想い出しました。
「持ち物全てを置いてゆけ!」
「全ての力を抜け!」
チドゥーは これが死ぬ
と言うことなんだナと
もう考えることをやめ
静かに目を閉じたその時でした。
瞬時にもといた地上界に
突然放り投げられた様な
そんな感覚になりましたが
しばらくして もとの世界とは
違うことに気づくのでした。
森もあり池も土もあります。
もちろん光も温度もありましたが
生き物が閑散としているのです。
チドゥーは恐る恐る立ち上がり
閑散とした動物たちのいる方へ
歩き出そうとした時でした。
森の草木をガザガザとかき分け
動物たちを先導する様にして
身体よりも大きな牙を蓄えた
マンモスとその一同が チドゥーに
向かって集まって来たのです。
岩山程ある巨大なマンモスは
チドゥーの目の前まで来て
「チドゥーとやら其方のことは
水の知らせで聞いておったゾ!
ここはナ!真のピタノアグリに
なる為の最後の修行の場なのゾ!」

チドゥーはピタノアグリの
ことについては言い伝えでしか
聞いた事がありませんでしたから
マンモスの話をキョトンとしまま
ただうなずき聞いていました。
「よく聞けチドゥーよ!
この世界を任された
ワシの名はハンダーマと言う。
ここでの基本的な掟を伝えるゾで
心にしっかり刻み聞く様に!。
まず一つには供養を目的としない
肉食は一切禁じていることゾ。
もう一つには植物との繁栄を
担う為に動物の個体数を
むやみに増やすことは
断じて禁じておるゾ!」
「ハイ!」
「後の二つはご飯の滝の
立て札に書かれておった通りで
持ち物全てを置いてゆけ!と
全ての力を抜け!であるゾ。
これらの解釈に付いては
みなの者と仲良くし
暮らし方を以て体得する様ゾ!
まぁ〜ここのみなの者も
地上で八百萬だった者たち
いずれはもとの世界に戻り
水と植物の繁栄に仕える身ゾ
せいぜい日々精進し 早く
地界を卒業する様に努めろゾ!」
そう言い残すとハンダーマは
また森の奥に消えてゆきました。
チドゥーは残ったみんなに
山ほど聞きたいことが
あったのですがやめて
笑顔で輪に混じってゆきました。
みんなも違和感無く受け入れ
チドゥーの地界での生活が
始まりました。

チドゥーは地界の食事や
植物を育てる作業が
とっても気に入ってしまい
友だちと一緒に作った
巨大南瓜を積み上げた家で
毎日を楽しく暮らしていました。
「ネェ!チドゥーの大好きな
木の実をさっきとって来たの!
朝食を一緒にたべよう!」
「ベリーナ 君はいつも気が利くナ
ありがとう!それでは甘えて
いただきア〜ス!」
「いただきア〜ス。
ネェー今日は何処にゆく?
そろそろ私のお気に入りの所に
案内してあげましょうか⁉」
「え〜嬉しいナ!」
「そう〜!決まりだわ!」
「ネェーところでベリーナ!
ボクが食べている木の実
何て言うの?とっても美味しいョ」
「あら⁈珍しい
質問はしないんじゃなかったの⁈
でもそれは秘密ョ!
さぁー早く朝食を食べて
ランチも作って出かけましょ!
チドゥーも手伝ってョ!」
「うん。」

巨大南瓜を積み上げた
ビラ・パンプキンにはベリーナの他
地上で麒麟ドラゴンだったと言う
アスパラ伯爵と画家のフェンネル
僧侶だった聖護院と警察官だった
プロポリスと無口で自分のことも
話さない賀茂茄子さんの男性五人
女性二名の仲良し住人がいました。
           (つづく)

*作者が着地点も見えないまま
迷走しだしたストーリー。果たして
幸せなチドゥーに どんな修行が
待ち受けているのでしょうか...。
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投稿者 right : 09:42 | コメント (0) | トラックバック